予防医学のお話 No.44
運動不足と生活習慣病

掲載日:2018年10月1日

私たち人間も含め動物には「運動機能」という身体を動かすための仕組みが備わっています。この機能は元来、食糧を探し求めたり、外敵や災害などの危険から身を守ったり、生命を維持するために必要不可欠なものです。弱肉強食の野生動物の世界では、運動機能の差が生死を分けることが珍しくありません。しかし人間社会では、文明が発展し世の中が便利になるにつれ、運動する機会が激減しています。朝夕の通勤時以外はほとんど身体を動かさず、終日パソコンの前に座って仕事をされているという方も多いのではないでしょうか。


人間の運動機能は、実際に身体を動かすことで必要な筋肉や機能が維持されています。たとえば「歩く」という動作には、大腿四頭筋(大腿直筋・広筋)、大腿二頭筋、前頸骨筋、下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)など脚の様々な筋肉が使われ、さらにお尻や腰、背中、腕の筋肉など全身の筋肉が使われています。また重心を移動させて前に進むためのバランス能力、さらには長い時間動くことができる心肺機能も必要となります。そのため運動をしなくなると、多くの筋肉が減少し、さらにバランス能力、心肺機能が低下してしまいます。筋肉の減少やバランス能力の低下により、歩くスピードが落ちて信号が変わる前に横断歩道を渡り切れなくなる、荷物を持つとバランスが保てずふらついてしまう、小さな段差でつまづいて転んでしまうなど、日常生活にも多大な影響を及ぼす恐れが出てきます。また心肺機能の低下は、息切れや心拍数の増加につながります。


食べものから摂取したエネルギーと運動により消費するエネルギーがバランスよく保たれているのが健康のために良い状態だということは、皆様もよくご存じのことと思います。しかし運動する機会が減っているのに食べる量が変わらなければ、摂取エネルギーが消費エネルギーを上回り、使われなかったエネルギーが脂肪として蓄積されていきます。そして脂肪の蓄積は、肥満、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病につながります。


運動には「有酸素運動」「無酸素運動」の2種類があります。有酸素運動とは、水泳、ジョギング、ウォーキング、サイクリングなど、軽~中程度の負荷を継続的にかける運動のことです。酸素を使って筋肉を動かすエネルギーである脂肪を燃焼させることから有酸素運動といいます。有酸素運動を行なうと酸素が必要になるため、体内ではより多くの酸素を運ぼうとして赤血球の数が増えます。同時に筋肉が活発になり、心臓の働きを助け血液の循環をスムーズにさせます。毛細血管に流れる血液の量が増えると、その刺激で毛細血管は枝分かれをし、新しい毛細血管となって発達していきます。酸素や栄養素の供給と二酸化炭素や老廃物の回収を担う毛細血管が増えると、細胞の新陳代謝がスムーズになります。下半身には全身の約7割の筋肉が集まっているため、ジョギング、ウォーキングなどによるミルキングアクション*で全身の血流がよくなり、脳への血流も増えます。血液と一緒に酸素やエネルギー源であるブトウ糖も多く運ばれ、脳内の神経細胞が活性化していくのです。脳は自律神経や免疫、内分泌の指令塔でもあります。脳内血流は認知症の予防にもつながります。


*ミルキングアクション:足の筋肉が血管の周囲で乳搾り(ミルキング)をするように伸び縮みする動き。

一方無酸素運動とは、短距離走や筋力トレーニング、ウエイトリフティングなど、短い時間に大きな力を発揮する強度の高い運動を指します。筋肉を動かすためのエネルギーを作り出すのに酸素を使わず糖をエネルギー源として利用することから無酸素運動と呼ばれています。全力もしくはそれに近い筋力を短時間で発揮しやすいのが特徴です。有酸素運動に比べ筋肉量を増やし基礎代謝を高めることにつながるため、ダイエットに関係し、太りにくい体を保てることになります。ボディマス指数(BMI)**22前後を維持することで、将来的にも病気が少なく、長生きできるというデータがあります。


**ボディマス指数(BMI):体重(kg)÷身長(m)2の数式から算出される、ヒトの肥満度を表す体格指数。

あまり体を動かさなくても日常生活を送ることができる現代、大勢の方が運動不足の状態に陥っています。それを自覚していても、実際に運動を習慣化するのはなかなか難しいと感じておられるのではないでしょうか。筋肉量は加齢とともに減少していきますが、いくつになってもトレーニングを行えばその分増やすことができる組織でもあります。動くことによって病気を予防し、なおかつ寝たきりで最期を迎えるのではなく、亡くなる直前まで自分で身の回りのことができる「健康寿命」を延伸していくこと、それが人間本来のあるべき姿ではないでしょうか。

いつまでも心身ともに若々しくいられるように、毎日運動していきましょう。

予防医学のお話一覧へ戻る
このページの先頭へ戻る