予防医学のお話 No.41
熱中症予防

掲載日:2018年7月2日

熱中症は、暑熱環境*下において生じる身体障害の総称です。熱中症の危険度は気温だけでなく、湿度、輻射熱**、風の有無によっても変化します。日本の夏は気候的に高温多湿なため、暑さによる体温調節機能が乱れやすく、特に熱中症を起こしやすいと言われています。また気温が高くなり始める時季は、まだ身体が暑さに慣れておらず気温の変化に対応できないため、熱中症が起こりやすくなります。


    * 暑熱環境:身体に影響を与える夏の暑さ環境のこと
    ** 輻射熱:太陽やたき火などの熱源、またそれらによって熱せられた物質から放射される熱のこと。


人間の体温は、体内で生成された熱と体外へ放出される熱のバランスを維持する自律神経の働きにより、37度前後で一定に保たれています。暑い日は末梢血管が拡張され、皮膚表面に多くの血液が流れることで体内の熱が体外に放出されます。また体温が上昇すると汗をかきますが、この汗が蒸発するときの気化熱により体にたまった熱が奪われることで体温調節をしています。しかし気温が高くなり外気温と体温の差が小さくなると、皮膚から体外に熱が放出されにくくなり、熱がこもって体温が上昇します。また湿度が75%以上になると、汗が蒸発しにくくなるため体温を下げることができず、さらに体温が上昇します。体温が下がらないと身体はさらに汗をかこうとするため、脱水症状を起こしやすくなってしまいます。


気温が高い日はもちろんのこと、気温が低い日でも熱中症への注意は必要です。気温が比較的低くても、湿度が高い日は熱中症になることがあります。湿度が高いと汗が乾きにくく蒸発しないため、気化熱で体温を下げることができず、熱が体にこもってしまいます。気温が高く湿度が高いことに加え、風が弱いと汗をかいても蒸発しにくく、さらに日差しが強いと輻射熱で体温が上がり、体からの熱放散を妨げる要因となりますので注意が必要です。


従来、熱中症はその症状により熱けいれん、熱失神、熱疲労、熱射病に分類されていましたが、現在は重症度に応じて、Ⅰ度(軽症)、Ⅱ度(中等度)、Ⅲ度(重症)の3段階に分類されています。


Ⅰ度

現場にて対処可能な軽症です。めまい、立ちくらみ、手足のしびれ、こむら返りなどの症状が現れ、従来の分類でいうところの熱けいれん、熱失神に相当します。高温下で長時間活動すると、大量の発汗により体内の水分と塩分が失われます。水分だけでなく塩分も補給しないと血液の塩分濃度が下がり、筋肉の伸縮に必要なナトリウムが不足します。すると筋肉の伸縮信号に異常が生じ、意識外で勝手に筋肉が収縮するため、こむら返りを引き起こします。また体温の上昇により全身を循環する血液量が減少して脳への血流が瞬間的に不十分になると、立ちくらみを引き起こします。Ⅰ度の症状があった際は、すぐに涼しい場所に移し、体を冷やす、水分を与えることなどの処置が必要です。


Ⅱ度

病院への搬送を必要とする中等症です。頭痛、吐き気、嘔吐、倦怠感、虚脱感などの症状が現れ、従来の分類でいうところの熱疲労に相当します。高温環境にいたことによる大量の発汗で、体内の水分や塩分バランスが失われて脱水症状になるために起こります。Ⅱ度はさらに危険な状態に移行する可能性が高いため、自分で水分、塩分が摂れないときは病院への搬送が必要です。


Ⅲ度

入院して集中治療する必要がある重症です。意識障害、けいれんなどの症状が現れ、従来でいうところの熱射病に相当し、脳症状が現れた危険な状態です。暑い環境で汗をかき、脱水症状と体温上昇により、体温調整機構が破綻し、中枢神経系を含めた全身の多臓器障害がみられます。体内の血液が凝固し、脳、肺、肝臓、腎臓などの全身の臓器の障害を生じる多臓器不全となり、死亡に至る危険性も高くなります。また脱水の進行とともに発汗もみられなくなり、体温は40度を超えます。初期の段階で異常を認識し、適切な処置を行うことが重症化の回避につながります。現場では、意識がはっきりしているかどうかの確認が重要となります。少しでも意識がおかしいと感じた場合は、症状にかかわらす病院へ搬送することが必要です。


熱中症は正しい知識と普段からの心がけで防ぐことができます。予防のポイントは次の通りです。


暑さに負けない体づくり

  • ・喉の渇きを感じていなくても、水分をこまめに摂る
  • ・大量の汗をかくときは、塩分を適度に補給する
  • ・通気性や吸水性の良い寝具選びや寝室の室温調節など、睡眠環境を快適に整える
  • ・バランスの良い食事と十分な睡眠で体調を管理する


暑さに対する工夫

  • ・自分のいる環境の気温と湿度を気にかける
  • ・扇風機やエアコンで室温を適度に下げる
  • ・通気性の良い生地や吸水性・速乾性にすぐれた素材など、衣服を工夫して暑さを調整する
  • ・外出時は帽子や日傘で直射日光を避け、なるべく日かげを選んで歩く
  • ・冷却シートや氷枕など、「冷却グッズ」を活用する

暑さから身体を守る行動

  • ・出かけるときは飲み物を持ち歩き、気づいたときにすぐ水分補給できるようにする
  • ・暑さや日ざしにさらされる環境で活動する際は、休憩をこまめにとる
  • ・天気予報やインターネットで公開されている「熱中症指数」に注意する


熱中症は、屋外、炎天下だけでなく、屋内にいても起こります。高齢者は老化に伴い、皮膚の温度センサーの感度が鈍くなり暑さを感知しにくくなります。屋内にいて熱中症で病院に搬送された高齢者の中には、冷房を使っていなかった方が目立ちます。室内温度をこまめにチェックし、上手にエアコンや除湿機を使うとよいでしょう。また思春期前の子どもは、汗腺をはじめとした体温調節能力がまだ十分に発達していないため、高齢者と同様に熱中症のリスクが高くなりますので注意が必要です。

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