予防医学のお話 No.40
睡眠負債

掲載日:2018年6月5日

睡眠負債

私たちは、人生の約1/3の時間を眠って過ごすと言われます。睡眠はほとんどの動物に起きる生理現象で、身体を休養させ生命を維持するために必要不可欠なものです。睡眠の本質的な役割についてはまだ解明されていない部分も多いのですが、重要な働きがあることが分かってきています。


脳機能や精神的な安定の維持

睡眠は、脳の適切な働きを助けます。起きている間に収集された様々な情報は、睡眠中に脳で処理され整理・認識されます。そのため、睡眠により記憶や学習能力が改善されます。また睡眠は、注意力・判断力・問題解決力・創造力・意欲等を向上させ、仕事や学習の効率をアップさせます。これは注意力や判断力の低下によるミスや事故の発生を防止することにもつながります。また、睡眠が不足すると精神的に不安定になり、さらにはうつ病などの精神疾患になることもあります。


細胞の新陳代謝の促進

「寝る子は育つ」ということわざがありますが、身体の発育を促す成長ホルモンは、睡眠中に分泌されます。成長ホルモンには新陳代謝を促す働きもありますので、睡眠は身体の種々の細胞や組織の再生・修復や、病気や傷の治癒促進、免疫力の向上にも役立ちます。さらに、強く丈夫な骨や筋肉、若々しい肌の維持等の働きが期待できます。


生活習慣病の予防

睡眠は、心臓や血管等、臓器や組織の修復に関与しています。睡眠不足が続くと、心臓病、腎臓病、高血圧、糖尿病、脳卒中のリスクが増大すると言われています。また睡眠は、健全なホルモンバランスの維持に影響しています。睡眠時間が短いと食欲を抑制するホルモン(レプチン)の分泌量が低下し、食欲を増進するホルモン(グレリン)の分泌量が増加すると言われます。睡眠は食欲を抑制し、肥満を防止するのに役立つとされています。


最近、テレビや新聞などで「睡眠負債」という言葉を耳や目にされたことはないでしょうか。これは米国スタンフォード大学の研究者によって提唱された言葉で、日々の睡眠不足が借金のように積み重なった状態を意味します。この睡眠負債は睡眠をとることでしか解消できません。睡眠負債が大きくなると、生活や仕事の質が低下するだけでなく、うつ病、がん、認知症などの疾病に繋がるおそれがあるとされています。


例えば、1日8時間の睡眠を必要とする人が、その日は3時間しか睡眠をとれなかったとします。5時間の睡眠不足となるわけですが、その不足を解消するには、翌日は13時間の睡眠をとることが必要となります。翌日が休日であれば、朝寝坊や昼寝ができるかもしれませんが、できなければ不足は解消されません。また過度の朝寝坊や昼寝には、睡眠のリズムを崩し、夜眠れなくなってしまうリスクもあります。


日本人のおよそ4割は睡眠時間が6時間未満で、睡眠不足の状態にあると言われています。しかし睡眠不足を自覚できていない方が多く、睡眠負債により成人の2割を超える方に睡眠に関連した健康問題があるとされています。


睡眠負債のリスクを取り除く根本的な方法は、不足している睡眠時間を増やすことです。睡眠の先行投資として日中に15分程度の昼寝をすること、また「質の良い睡眠」をとることも有効とされています。質の良い睡眠をとるための基本は、次の通りです。


  • ・朝日や昼間の光を浴びて適度な運動をする
  • ・寝る前にストレッチや有酸素運動などで体温を高めておく
  • ・夜は室内の照明をあまり明るくせず、寝室はできるだけ暗くする
  • ・寝心地の良い枕や寝具を選ぶ
  • ・規則正しい生活を心がけ、規則的な時間に食事を摂る
  • ・夜はスマートフォンやパソコンの使用などによるブルーライトを避ける
  • ・アルコール、カフェイン、たばこの過剰摂取に気をつける

また、仕事や家庭内のトラブル、生活環境の変化などによる過度の精神的なストレスは入眠困難を引き起こすことがあります。過度のストレスが加わると情動的な興奮が高まり、覚醒中枢が刺激されるため、睡眠中枢の働きを抑えてしまい、寝つきが悪くなり、かつ睡眠も浅くなります。就寝前には心身ともにリラックスした状態になるように心がけることも大切です。

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