予防医学のお話 No.32
心と身体の関係

掲載日:2017年10月02日

うつ

「現代はストレス社会だ」と言われるようになって久しいですが、地球規模の災害や長雨・ゲリラ豪雨・竜巻のような異常気象、スマートフォンの普及によるテクノストレス、経済のグローバル化、国際情勢の緊迫化など、ひと昔前と比べ私たちを取り巻く不安定な要因はさらに増えているように感じます。
「ストレス」とは、心身に負荷がかかった状態と考えられています。もともとは物理学で使われていた言葉で、生物が外的あるいは内的な刺激に適応していく過程を概念化したものです。季節の移ろいや進学・就職・結婚・出産等のライフイベント、またそれらに伴う生活環境や人間関係の変化…。私たちの人生は実に様々な変化に満ちており、それらの変化は私たちに多くの刺激を与え、それらに適応することは私たちに大きな成長をもたらすこともあります。しかし過度のストレスが自律神経や免疫、内分泌に影響を与え、様々な病気が発症することがわかってきています。またストレスが原因でうつ病などの「気分障害」を発症する患者も増えつつあると言われます。
気分障害とは、気分の調節に障害が起こる病気の総称で、うつ病と双極性障害(躁うつ病)は気分障害の代表的な病気です。憂鬱な気分は誰もが経験することですし、何か原因があって気分が滅入ったり、悲しい、寂しいなどの気分になるのは、感情の正常な反応です。しかし思い当たるきっかけもなく憂鬱な気分になったり、うつ状態が続いたりする場合は、気分障害になっている可能性があります。
日本人が生涯でうつ病にかかる割合は、女性で25%、男性で8~15%程度と言われます。回復するとまったく人格の欠陥を残すことなく大部分が今まで通りの生活に戻ることから「うつ病は心の風邪」と言われることもありますが、気分障害の原因についてはいくつかの説が存在し、まだ完全には解明されていません。
気分障害は、糖尿病や高血圧のようになりやすさが遺伝する病気であるとされています。しかしその影響は大きくなく、親がうつ病だとその子どもも必ずうつ病になるということではありません。現段階では遺伝と環境の影響が組み合わさって脳に問題が生じ、ストレスなどが引き金となって発症に至るのではないかと考えられています。
気分障害の患者は、前頭葉の脳梁膝下野という部位で血流量と糖の代謝率に変化が生じているという報告もあります。脳は大量の血液を必要とする器官であり、ブドウ糖だけを栄養として体全体のエネルギーの約20%を消費しています。うつ状態では血流と糖代謝の低下が、躁状態では逆に増加の傾向がみられるのです。そのため、うつ状態ではこの領域の神経活動が抑えられ、躁状態では活発になっているのではないかという研究が進められています。
またうつ病は、脳内の何らかの化学的な物質が変化することで起こるという推測がなされ、脳内のセロトニン、ノルアドレナリンなどのモノアミンと呼ばれる神経伝達物質の量が変動することも、気分障害の原因と考えられています。抗うつ薬には、神経細胞間で信号伝達に関わるシナプス間のモノアミンの量を増やす効果があります。この効果から、脳内のモノアミンの量が減少するとうつ状態になり、逆に過剰になると躁状態になるのではないかという仮説が立てられています。単純に1つの神経伝達物質の減少や増加だけではすべてを説明できませんが、脳内の化学物質の変化で病気が起きているという基本的な考え方は現在も主流となっています。
これからの季節「冬季うつ病」という季節性のうつ病があります。日照時間が短くなる秋から冬にかけて、太陽光を浴びる時間が少なくなることから発症するとされています。うつ病の人に不足していると言われる「セロトニン」や「メラトニン」といった脳内の神経伝達物質は、午前中や昼間に太陽の光を十分に浴びると分泌されやすくなると言われます。毎日の生活の中に太陽の光を少しでも取り入れる習慣を身につけ、規則正しい生活習慣を心がけましょう。

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