卵殻膜

卵殻膜ってなに?

鳥類は卵から孵化します。哺乳動物の胎児がへその緒を通じて母親から栄養補給を受けるのと異なり、親鳥から産み落とされた卵は外部から栄養補給を受けることができません。そのため卵には、ヒナが誕生するまでに必要な栄養や水分が貯えられています。新しい生命が誕生するのに必要な栄養がすべて詰まった卵は、「完全栄養食」とも呼ばれます。
また卵には、生まれてくるまでのヒナを守るため、様々な防御機構が備わっています。
産み落とされたばかりの卵の殻は、表面がザラザラしています。これは「クチクラ」というタンパク質の薄い膜で覆われているためです。クチクラは破れやすく、水で洗うとすぐに取れてしまいますが、産卵直後の卵に微生物が侵入するのを防いでいます。
炭酸カルシウムを主成分とする卵殻は、物理的な衝撃から卵の内部を守る役割を果たしています。重さ60g程の鶏卵を割るには4kg以上の力が必要とされ、鶏卵の上下を親指と人差し指で挟んで割るのは、相当な握力の持ち主でなければ難しいでしょう。
さらに殻と卵白・卵黄の間には、「卵殻膜(らんかくまく)」と呼ばれる厚さ0.07mmの薄膜が存在します。外卵殻膜・内卵殻膜の二層からなり、気温や湿度など外部環境の変化や細菌感染からヒナを守る役割を果たしています。

食物繊維イメージ

卵殻膜に含まれる成分

卵殻膜の主成分は、9種類の必須アミノ酸(リジン、ヒスチジン、トリプトファン、アラニン、バリン、メチオニン、イソロイシン、ロイシン、スレオニン)と11種類の非必須アミノ酸(グリシン、プロリン、シスチン、アルギニン、アスパラギン酸、セリン、グルタミン酸、チロシン、フェニルアラニン、グルタミン、アスパラギン)で構成される繊維状のたんぱく質です。コンドロイチンやヒアルロン酸などのグリコサミノグリカン*やコラーゲンを含有し、その組成は人間の皮膚や他の部位のアミノ酸組成と非常に近いと言われています。

*グリコサミノグリカンは、多糖類の一種でアミノ糖とそうでない糖とが混ざったものです。ムコ多糖とも呼ばれ、動物の結合組織に広く存在しています。ヒアルロン酸やコンドロイチンはグリコサミノグリカンに分類されます。

卵殻膜利用の歴史

卵殻膜は、古くから人々の生活の中で利用されていたようです。中国の明の時代の医師・本草学者(薬学者)の李時珍(り・じちん)がまとめた薬学書「本草綱目(ほんぞうこうもく)」(1596年完成)には、「卵殻中白皮(卵殻膜)」が創傷等の治療薬として記載されています。本草綱目は江戸幕府の開府から間もない1607年には儒学者・林羅山(はやしらざん)を通じて徳川家康に献上されていますが、日本では戦国時代にはすでに卵殻膜を傷ややけどに貼って治療薬として用いていたと伝えられています。卵殻膜を貼って治療すると、傷口の治りが早く、周辺の皮膚が柔軟で傷が再発しにくいことを経験的に知っていたものと考えられます。現在でも、稽古でできたすり傷や切り傷の治療に卵殻膜を使っている相撲部屋があるそうです。

このように卵殻膜が皮膚の修復に役立つことは古くから知られていたようですが、卵が貴重で高価なものだった時代は利用する機会が限られていたようです。また卵殻膜はその組成から、食べても健康に役立つ可能性が指摘されてきました。しかし外部環境の変化や細菌感染からヒナを守る役割を担っている卵殻膜には、とても強靭で熱に強く水にも油にも溶けないという性質があります。そのまま食べても人間には消化・吸収できないため、卵が手軽に入手できるようになってからも、卵殻膜のほとんどは利用されることなく廃棄されていました。多くの研究者が長年にわたり利用しやすい卵殻膜原料の開発に取り組んできましたが、卵の殻と卵殻膜の分離技術や人間が消化できる卵殻膜原料が開発され、食品や化粧品等に利用されるようになったのは、比較的最近のことです。

卵殻膜利用の歴史イメージ

卵殻膜のⅢ型コラーゲン産生促進作用

コラーゲンは主に脊椎動物の真皮、靭帯、腱、骨、軟骨などを構成するタンパク質のひとつです。人間では体内に存在する全タンパク質の約3割を占めています。30種類近くのタイプが存在し、真皮、靭帯、腱、骨などはⅠ型コラーゲンが、関節軟骨はⅡ型コラーゲンが主成分です。 Ⅲ型コラーゲンは新生児期の皮膚組織に最も多く存在し、加齢とともに減少する細くてやわらかい線維性コラーゲンです。肌の弾力や柔軟性を保ち、ターンオーバーを促す働きがあり、減少すると肌の弾力やみずみずしさが失われていきます。 またⅢ型コラーゲンは、細網繊維(さいもうせんい)と呼ばれる細い網目状の構造を形成して、細胞などを保持する足場を作ります。創傷治癒過程の初期段階で増殖し、やがてⅠ型コラーゲンに置き換わることで治癒が進むといわれています。 卵殻膜には、ヒト線維芽細胞を活性化・増殖させ、Ⅲ型コラーゲンを増やす働きのあることが報告されています。

卵殻膜のⅢ型コラーゲン産生促進作用

卵殻膜のしみ・そばかす予防作用

卵殻膜のしみ・そばかす予防作用

卵殻膜を構成する20種類のアミノ酸のうち、特に多く含まれているのが「シスチン」です。シスチンは体内でL-システインに二分化されますが、L-システインはビタミンCと結合して、しみ・そばかすの原因となるメラニン色素の産生を抑制します。また過剰に産生されたメラニンを無色化し、肌の代謝を正常化して角質に沈着したメラニンの排出を促します。

卵殻膜の抗炎症作用

卵殻膜には、抗炎症作用があることがわかってきました。膝や股関節に痛みのある人に卵殻膜を摂取してもらったところ、10日で歩行時や階段昇降時の痛みが改善したという研究結果が報告されています。

卵殻膜の抗炎症作用

参考図書

  • 「卵にみる生体の防御機構」一島英治 化学と生物 Vol.13, No.8
  • 「日本大百科全書」(ニッポニカ)小学館
  • 「徳川家康と本草学」宮本義己(笠谷和比古編「徳川家康-その政治と文化・芸能-」宮帯出版社 2016年)
  • 「本草綱目の渡来とその普及」国立国会図書館 電子展示会 描かれた動物・植物 江戸時代の博物誌
  • 「美肌・アンチエイジングで注目の新素材 卵殻膜のヒミツ」日経ヘルス2015年1月

卵殻膜の健康情報

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