アルギニン
アルギニンってなに?

アルギニンとは、タンパク質を構成する20種類のアミノ酸のひとつです。私たちの体内で合成できるものの、成長期や体力消耗時などは合成量が十分ではなく、食事などで摂取する必要があるため、「準必須アミノ酸」と呼ばれています。アルギニンは多機能性を持つアミノ酸として知られており、また、生理的に重要なアミノ酸であると考えられています。
アミノ酸の働き
私たちの体のおよそ20%はタンパク質で構成されており、筋肉、臓器、皮膚、髪、血液などの形成にもタンパク質が利用されています。私たちが食事で肉や魚などのタンパク質を摂取すると、体内で20種類のアミノ酸に分解され、再びタンパク質に組み換えられます。アミノ酸がいくつか結合したものは「ペプチド」と呼ばれ、そのペプチドがさらに結合することでタンパク質は形成されています。

20種類のアミノ酸のうち、11種類は私たちの体内で他のアミノ酸から合成して補うことができます。しかし、残りの9種類は体内で合成することができず、食事などから摂取する必要があります。私たちの体内で合成することができないアミノ酸は「必須アミノ酸」、合成できるアミノ酸は「非必須アミノ酸」と呼ばれています。
必須アミノ酸(9種類)
- ロイシン
- フェニルアラニン
- イソロイシン
- リジン
- メチオニン
- バリン
- トリプトファン
- ヒスチジン
- スレオニン
非必須アミノ酸(11種類)
- アルギニン
- アスパラギン
- グルタミン
- セリン
- プロリン
- チロシン
- アスパラギン酸
- グルタミン酸
- システイン
- アラニン
- グリシン
※体内で合成できるアミノ酸の中で合成量がきわめて少ないものを準必須アミノ酸とも呼びます。
アルギニンを含む食品

アルギニンは大豆などの豆類、鶏肉などの肉類、ゴマなどに多く含まれており、日本人が1日に摂取するアルギニンの量はおよそ数グラム程度だと言われています。
また、にんにくやウナギなど、昔から「食べると元気が出る」と言われているような食材にも多く含まれており、近年流行しているエナジードリンクのなかには、アルギニンが配合されているものもあります。
アルギニンを含む食品に関しては標準化、または確立された用量はありませんが、人によっては多量摂取により健康被害が生じる可能性もあります。例えば、喘息のある人はアルギニンを吸入することで症状を悪化させる可能性や、アレルギー症状を発症することと関連があると考えられています。この他にも、吐き気、胃けいれん、腹痛、排便回数の増加、下痢、痛風、ヘルペス、低血圧などが生じる可能性もあります。
健康な人がサプリメントなどで摂取する際は、用量に関する科学的な情報が不足しているため多量に摂取したり、日に何度も摂取したりすることのないよう注意しましょう。
また、小児や、妊娠・授乳期にサプリメントとしてアルギニンを摂取することに関しても、科学的な情報が不足しているため、小児や妊娠・授乳期における摂取も推奨されていません。
注目される生理機能
アルギニンには、成長ホルモンの分泌を促進したり、疲労物質(アンモニア)の代謝をサポートしたりする働きがあります。また、一酸化窒素(NO)やポリアミン類などを産生し、血流を改善したり、免疫機能を活性化したりします。アルギニンは多機能性を持つアミノ酸として知られていますが、特に、アルギニンが産生する一酸化窒素(NO)の生理機能については、1998年、R. Furchgott 氏、L. Ignarro 氏、F. Murad 氏らによるノーベル生理学医学賞受賞以降、様々な研究が進められています。
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「血管系:心血管疾患における一酸化窒素の役割」
血管と血流改善のメカニズム
血管は動脈、静脈、そしてその2つを末端でつなぐ毛細血管の3種類からなる、血液を全身に送るための重要な器官です。心臓から送り出された血液は、動脈を通して、器官や組織に酸素や栄養やホルモンを供給します。また、静脈を通って二酸化炭素や老廃物を受け取りながら心臓に戻ってきます。成人の血管から毛細血管に至るまで、すべて1本につなぐと、9~10万キロメートルにも達すると言われています。
アルギニンは一酸化窒素(NO)を産生し、血管の平滑筋を弛緩することで血管を拡張させ、血流を改善する働きがあります。つまり、血管拡張メカニズムにおいて、最初のスイッチとなるのが一酸化窒素(NO)の産生です。動脈硬化を要因とする生活習慣病が増加傾向にある現在、一酸化窒素(NO)を産生するアルギニンの生理機能に注目が集まっています。

免疫機能のサポート
私たちが持つ免疫機能の中に、体外から侵入してきた細菌やウィルスを攻撃するマクロファージという免疫細胞が存在します。マクロファージは大食細胞とも呼ばれ、細菌やウィルス、死んだ細胞を内部に取り込み、消化・無害化するという働きを持っています。アルギニンが産生する一酸化窒素(NO)はマクロファージの働きをサポートし、免疫を活性化する働きがあると考えられています。

疲労回復を助ける働き
疲労は、筋肉などの疲労(末梢性疲労)と、脳の疲労(中枢性疲労)の2種類に分類されますが、どちらも筋肉や脳に負荷がかかり、疲労性物質が発生することで起こります。私たちが感じる疲労による「疲れ」は、疲労性物質が細胞の機能やエネルギー産生を低下させることが原因のひとつであると考えられています。
アンモニアは疲労性物質のひとつですが、肝臓にはアンモニアが体内に過剰に蓄積することを防ぐために、アンモニアを無毒な尿素に変換する仕組み(尿素サイクル)を備えています。アルギニンはこの仕組みを構成する物質のひとつで、外部からアルギニンを摂取することでその働きが促進されると考えられています。

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