注目の健康情報 No.43
新時代を迎えた腸内常在菌研究 ~研究成果を国民の健康管理・疾病予防に向けて〜 ③急速に進む腸内細菌究明

掲載日:2017年02月01日

以前は10年で一歩前進だった腸内細菌の研究ですが、近年ではそのスピードが格段に増しています。最近では腸内細菌叢の乱れがぜんそくを悪化させることにつながる機序が解明されたり、細菌がつくる酪酸が制御性T細胞というアレルギー反応を抑える免疫細胞を増やすことが明らかになったりしています。

遺伝子分析をするマイクロビオームはその最先端で、これまでの菌を1株ずつ育てて菌種を特定していた培養法に代わる画期的な方法です。この方法なら分離や培養が難しい腸内常在菌でも、菌種や菌種間の関係を明らかにできます。

一方で、たとえある菌の培養が難しいとしても、その菌の機能を解明するためには従来型の培養法も重要なことに代わりはありません。この種類の研究は日本人が得意とする分野なので、し っかりと新しい腸内細菌の世界を解明していきたいと思います。

腸はただ単に栄養を吸収するだけの臓器ではなく、ヒトの健康に関して重要なカギを握る臓器だということがご理解いただけますか。それなのに、腸内常在菌はその多くは未解明で、全部で1000種以上と言われていますが、一説には1万7000種いるというデータがあるくらい複雑な構造をしているのです。したがって、たとえ、次世代型シークエンサーを使用したとしても、大部分の未知菌種・菌属はヒットせず、既存菌属、科の情報をたよりに解明しているに過ぎないのです。

今後も未知の腸内常在菌、秘めた能力、機能性などが世界中でさらに研究され発表されていくでしょう。それらを促進するためには“培養法への依存”が新しい時代のさきがけとなると確信します。我が国は受け継がれてきた培養法の伝統を活かしていかなくてはなりません。その培養法も、これまでの方法と異なる手法を考案すべきでしょう。この点について、私はメンブランフィルター(0.22マイクロメートル)を用いた「微生物の新しい培養法」を考案したのです。つまり、複雑な群集構造をしている腸内常在菌群をどうのように把握するのかが大切です。腸内ではA菌がA’という物質を産生し、それがB菌の生育促進に関与する。B菌が出すB’という物質がC菌を抑制するという「共生・拮抗の世界」を作り上げているのです。その機序を利用して、培養困難な細菌を取り出すことも可能となるのです。さらに、腸内常在菌の培養時間は48~72時間ですが、緩衝作用の強い培地を考案し、1週間以上培養を続けますと、これまでの世界とは異なる腸内常在菌が出現してくるのです。

このように、今までにない見地から腸内常在菌の謎を解き明かす新しい解析方法や機能を見極める手段が開発されていくことが大切です。

腸をよく知り、腸内常在菌のバランスを改善すれば健康的な生活が過ごせますが、腸内常在菌を研究する者としては研究の成果を生かし、より多くの人たちの健康増進に役立てたいのです。そして、次世代の研究者の育成も、今後の腸内常在菌研究の発展には重要な課題といえるでしょう。私が教え子たちに伝えているのは、『研究というのは和の営み』。どんな新しい発見をするにせよ、いろいろな人の力、総合力が新しい研究領域を作っていくことです。腸内常在菌という一つの細菌研究も、別の研究や違う分野で派生、拡散することによって、さらに大きな領域へと広がっていけます。研究者というのは、新しいことを発見することもあるが、お互い協同し合って何かを見つけ出すことや学問の新しい領域を構築することも重要なことになります。新しい発見が次の世代にとって、さらに新しい発見へとつながることはとても大事なことです。そして、その新たな発見を自分だけのものにせず、どんどん解放し、いろいろな人を巻き込んで領域を広げていくことが重要でしょう。次世代の研究者たちのため、世界中の人たちに新発見を使ってもらえる環境を作るのも、我々現世代の研究者の大事な使命と心に常に言い聞かせています。

従来の“腸内常在菌学”は、細菌分類学を背景にして、いわば「知るための研究」でありました。一方、腸内常在菌解析による健康管理法の確立は、予防医学と手を携えて進むことで、人々の健康に結びつく研究という意味では、「知る」という科学の営みを超えた研究分野といえるでしょう。今や、腸内常在菌の構成と機能の解明により、新たな研究領域に拍車をかけ、人々の健康の有り様さえも変えうる力になるか否かの分岐点にあるのです。
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