注目の健康情報 No.28
胸にある免疫製造所

掲載日:2016年06月02日

免疫はどこで作られるのか。それは、白血球や骨髄で製造される免疫細胞、腸管など、さまざまな場所で作られ、機能しているが、免疫を語る上で、欠かせない小さな臓器がある。「胸腺」という臓器だが、ご存知だろうか?心臓の前に位置している小さな臓器で、骨や内蔵を描いた人体図でもほとんど描かれたのを見たことがない。聞いたことがない人は多いだろう。

胸腺は網目のような構造になっていて、網目の中に「胸腺細胞」がある。この胸腺細胞は、体にとって害を与える原因(抗原)の情報を学習しながら成熟・増殖していくのである。

成長したものは「T細胞」と呼ばれる。T細胞と聞くとある特定の細胞のように思うが、実際はさまざまな役割を持つチームのようなものだ。免疫に対する反応を増強させるものや、逆にそれを抑制するもの、非自己や変質した自己に直接とりついて殺すものなどが存在する。自己と非自己を識別するためのアンテナも装備し、攻撃をおこなう前にアレルギーの原因かそうでないかを調べることもできる。

このT細胞を作り、身体中に配っているのが胸腺なのだ。

1961年、ロンドンの研究所にいたミラー博士の論文で、胸腺の免疫学的意義が明らかにされる。ミラー博士が生後数時間以内のハツカネズミの胸腺を摘出する実験をおこなったところ、リンパ性白血病を起こしやすいマウスが白血病をおこさなくなる、感染症にかかりやすい、早死にすることなどがわかったからだ。これらのことから、胸腺が免疫系に関して重要な役割を担っていることが推測され、以降、胸腺および免疫の研究は急速に進んでいった。

胸腺は、幼少期~成長期には心臓の前をチョウチョや逆さハートのような形で覆うように広がっている。この胸腺はヒトの場合10代、しかも15歳ぐらいまでに最大の大きさになるが、性成熟後は急速に小さくなり、40歳ごろからは脂肪組織に置き換わり、80歳ぐらいになると痕跡程度になる。つまり子供時代がピークの期間限定の臓器なのだ。重さは、生まれたときは約10g程度で、10代の最大時の大きさで約30~35gになる。加齢とともに衰え、40代ごろには15g程度となってしまう。子供時代がピークの臓器となれば、40歳を過ぎて胸腺が脂肪になり、T細胞ができなくなったらどうなるのか。

免疫の機能が急激に落ちるのか心配になるかもしれないが、T細胞は刺激を受けると分裂・増殖できるため、胸腺が退化、または腫瘍など病気で摘出することになっても、T細胞が全てなくなることはない。ただし、胸腺1gあたりのリンパ球の数は、生まれてすぐは10億個以上あるのが40代ではその1%、1,000万個にまで減る。10代、20代が健康でも、40代以降に病気が増えていくのは、この点からみてもやむを得ないことなのだ。
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